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「どうぞ、上がってくださいな。シリル、手伝っておくれ」
「はいよー」
招かれるまま屋内に入り、通された部屋で座るよう促される。
「すぐに用意しますから、ちょっと待っててくださいね」
そしてそれだけを言うと、シーラさんはシリルさんを連れて部屋を出ていった。
「……シリルさんのおばあさまって、すごい方だったんですね」
静かな部屋で、ぽつりとトリシアさんが言う。
「そうなんですか?」
「はい。ロビス試験場の創設者シーラといえば、十四歳の時点ですでに一流の薬屋だった偉人なんです。そんな人とこうしてお会いできるなんて本当にすごいことなんですよ……!」
「彼女は薬屋を目指す者の目標みたいな人です。俺も、じいちゃんからよく話を聞きました」
「三十九歳の時に目を悪くして薬屋を引退してしまったんですけど、それでも後進の育成に注力してくださった方なんです」
「この国で先生って呼ばれてる薬屋のほとんどが彼女の教え子だって言っても間違いじゃないくらいですよ」
そう語る二人の声には熱がこもっていた。
「……シーラさんはレイディヴァトの薬学の英雄なんですね」
「あらまあ、そんな大層なものじゃありませんよ。私は師匠の教えを繋いだだけだもの」
いつの間に戻ってきていたのか、僕の呟きのような言葉にシーラさんは笑う。
「師匠のほうがずっと素晴らしく、英雄に相応しい薬屋でしたよ」
ただそれだけ言い、シーラさんは後ろのシリルさんへ声をかけた。
「シリル、それをこっちにおいてちょうだい」
「はいよー。よっこいせ」
シリルさんは抱えていた箱をテーブルに並べ、いたずらっ子のような笑みを浮かべる。
そんなシリルさんの腕を、シーラさんはぺしりと叩いた。
「ばーちゃん、なんで叩くんだよ」
「あんた、絶対悪い顔しとったでしょう。見えなくても分かっとるからね」
とぼけるシリルさんへ呆れた声を返し、シーラさんは僕たちへ向き直る。
「実はね、私からあなたたちへ贈り物があるのよ」
そう言って、シーラさんは柔らかく目を細めた。
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