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卓上に並ぶ箱は三つ。どれも同じくらいの大きさをしている。
「まずはこちら、ヴァーミリオンさんへの贈り物なんですけどね。開けてもらってよろしいかしら」
「は、はい。開けますね」
シーラさんに従って箱の蓋を取ると、中には僕の頭ほどの大きさの巻き貝が入っていた。
当然殻だけのようだけど、そこにあるだけで確かな存在感がある。
「これは幻と呼ばれる巻き貝、女神のラッパの貝殻なんですけどね」
シーラさんが言った瞬間、トリシアさんとノルドさんが体をこわばらせたのが伝わってきた。
その名前は僕も知っている。
不老不死の秘薬の材料の一つだ。
そんなすごいものが、今目の前にある。
驚く僕たちへ笑みを向けながら、シーラさんは言葉を続ける。
「師匠から譲り受けたものだけど、私はもう薬を作れないからヴァーミリオン先生に受け取ってほしいのですよ」
「えっ」
サラリと言われた衝撃的な言葉に思わず声を漏らすと、シーラさんは僕を見てコクリと頷いた。
「……その、お師匠さんから受け継いだ大事なものを、よそ者で初対面の僕がいただいてしまっていいんですか?」
「ええ、ええ。受け取ってください。こんなところで砂をかぶっていくより、ヴァーミリオンさんに有効活用してもらったほうがずっといいと思いますから」
確認するように問うと、笑顔で即答されてしまった。
「……それにね。師匠には『お前の使いたいように使え』って言われたんですよ。使う前に目を悪くしてしまったんですけどねえ」
そう言ってシーラさんはちらりと箱の中へ視線を落とし、僕へ視線を戻す。
「だから、私の代わりにこれを使ってやってくださいな。ヴァーミリオンさんのお好きなように使ってくださって構いませんから」
そこまで言われては断りづらい。
「分かりました。貴重なものをありがとうございます。大切に使わせていただきます」
「うふふ、ありがとうございます。いつか、完成した薬を教えてくださいね」
「……そう、ですね」
そうは言ってもシーラさんは老齢だ。
教えられるうちに薬を完成させられるかは分からない。
「あら、大丈夫ですよ。私はもっとずっと長生きしますし、あの海を除染したヴァーミリオンさんならきっとすぐに完成させられますよ」
「……ありがとうございます。努力します」
明るい声で言うシーラさんに、僕はどうにかそれだけを返した。
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