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ひとまず箱を閉じ、シーラさんは次にトリシアさんへ向き直る。
「それで、こちらはトリシアさんへの贈り物ですね。開けてみてくださいな」
「は、はいっ! 失礼します……!」
やや緊張した様子でトリシアさんは言い、蓋に手をかけた。
開かれた箱の中に収められていたのはトリシアさんの顔くらいありそうな板状の塊で、トリシアさんは目を見開く。
「これはツイタテサンゴ、楽園の門扉と呼ばれているサンゴです」
「ツイタテサンゴって、深い海でしか採取できない希少な素材じゃないですかっ!」
悲鳴のような声で言い、トリシアさんはそっと蓋を閉める。
こちらも見た覚えのある名前だ。
これの入手難度から挑戦を諦めた薬がいくつかある。
「こんな高価なもの、受け取れませんよ!」
「まあまあ、遠慮しないでくださいな。先ほども言ったけど、薬を作れない私が持っててもしょうがないんですよ。言い方は悪いけれど処分だと思って……ね?」
シーラさんは少し困ったように眉尻を下げ、懇願するようにトリシアさんへそう言った。
トリシアさんが言葉に詰まったのが分かった。
あれはたぶん、僕でも断れない。
「……わ、分かりました。ありがとうございます、いただきます」
「こちらこそ、受け取ってくれてありがとうございます。遠慮せずに、好きなように使ってくださいね」
「は、はい……本当に、ありがとうございます……!」
完全敗北したトリシアさんは震えた声で言い、シーラさんへ深く頭を下げる。
「うふふ、そんなに恐縮しなくていいんですよ。ただの処分なんですから」
「さすがにそれは無理があるよばーちゃん」
少女のような笑みを浮かべるシーラさんに、シリルさんは呆れた声をこぼした。
彼のその言葉には同意するばかりである。
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