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トリシアさんが落ち着いてきたところでシーラさんは最後の箱を指し、ノルドさんへ言った。
「最後に、こちらがノルドさんへの贈り物なんですけどね」
「あ、あの、俺もいただいていいんですか……?」
「ええ、ええ。遠慮なく受け取ってくださいな」
わずかに引きつった顔で問うノルドさんにシーラさんはニコニコと返し、蓋を開けるよう促す。
ノルドさんが恐る恐るといった様子で開けた箱の中には、大粒の真珠が箱の中ほどまで入っていた。
ノルドさんは蓋を持ったまま固まっている。
「これは見ての通り真珠です。おとぎ話では水精霊の涙なんて呼ばれていますね」
この国の薬学では、真珠はさほど珍しい材料ではない。
けれど、一度にこんな量を見ることはまずないだろう。
「……こ、んな、たくさん、いいんですか?」
「もちろんです。歪なものばかりだけれど、これでたくさんの薬を作ってくださいね」
やや片言になりながら言うノルドさんへ、シーラさんは深く頷いた。
「……ありがとう、ございます……」
僕とトリシアさんを見ているからか、ノルドさんは緊張していながらも素直に箱を受け取り、シーラさんへ頭を下げる。
その様子がどう見えているのかは分からないけれど、シーラさんは満足げに微笑んだ。
「ばーちゃん、あとの二人の分は俺が渡してこようか?」
「いいえ、大切な贈り物だもんで私から直接お渡ししたいのよ。どこかの授業の日にお邪魔しようかね。アデリーにも会いたいし」
「ロビスが大騒ぎになるからそれだけはやめて。二人に都合を合わせてもらって俺が連れてくるし、室長にも顔見せるように言っとくから」
……シリルさんとシーラさんの不穏なやり取りは聞かなかったことにして、それぞれ受け取った箱を抱える。
貝殻だけとはいえ、巨大な巻き貝の入った箱は結構重たい。
トリシアさんとノルドさんもそれは同じようで、何度か抱え直していた。
(……とんでもないものを頂いちゃったな)
けれど、それだけ薬屋として期待されているのだろう。
それなら出来る限り、その期待には応えたいものだ。
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