五年と十月越しの観光

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 シーラさんの家を後にし、再び商店街へと戻る。  まだ少し時間に余裕があるため、色んな店を見て回ることになった。  魚屋では食材であるはずの魚が店内を自由に泳ぎ回っていて驚いた。  雑貨屋では不思議な形をした、用途の分からない道具がたくさんあって興味深かった。  呼び止められて店を覗いたら陸からの輸入品を扱う店で、並ぶ商品に懐かしさを覚えた。  何気なく入った店がジロー商会の店で、見慣れた商品に思わず固まってしまったりもした。 「――そろそろお時間です」 「えっ、もうそんな時間なんですね」  ひどく申し訳なさそうに言うミラドールさんにそう返し、改めて三人に向き直る。 「今日は街を案内してくれてありがとうございます。おかげで貴重な体験ができました」  予想外のこともあったけれど、異文化に触れるのはやはり楽しい。  そう伝えると三人は嬉しそうに顔を綻ばせた。 「よかったです! また都合が合ったら遊びに行きましょうね!」 「それ、いいですね。今度は違う店を紹介します」 「まだまだおすすめはいっぱいあるんで楽しみにしててください!」  早くも次の話を出され、三人は盛り上がっていく。 「次はキルダさんとヤニックさんも来れるといいですね!」 「じいちゃんは来れると思うけど、キルダさんは貴族だから難しいんじゃないですか?」 「でも許可をもらうつもりって言ってたし、何とかなることを祈るしかないよなー」 「そのあたりはまた別の日に話し合って決めましょうか」  やんわりと三人の思考を引き戻し、改めて頭を下げる。 「今日は本当にありがとうございました。みなさんも、気をつけて帰ってくださいね」 「はい! ヴァン先生も騎士さまもお気をつけて!」 「お疲れさまでした。どうかお気をつけて」 「ばーちゃんに付き合ってくれてありがとうございました! 気をつけてお帰りください!」  それぞれそう言い、惜しむように振り返りながら解散する。  それを分かってくれているのか、ミラドールさんはいつもより速度を落として泳いでいるようだった。 「……ありがとうございます、騎士様」 「お気になさらず」  僕の言葉に、ミラドールさんはただそれだけを返して帰路を進んでいった。  
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