五年と十月越しの観光

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 トリシアさん、ノルドさん、シリルさんとの観光から数日後。  今日はトリシアさんとヤニックさん、キルダさんの案内でレイディヴァトを観光することになっている。  ノルドさんはヤニックさんから与えられた宿題があり、シリルさんは試験場での仕事があるということで今回は不参加だ。  楽しんできてほしいとそれぞれから笑顔で言われたけれど、もちろんそのつもりである。  前回の観光と同様に薬屋の前で待ち合わせて、それぞれのおすすめに案内していくそうなのだけど、今回は少し人数が多い。  というのも、キルダさんが三人ほど護衛を連れているからだ。  旦那さんであるヴィクヘンドール公爵から、最低三人の護衛をつけるなら許可すると言われたらしい。 「ごめんなさいね。これでも交渉して人数を減らしましたのよ」 「そ、それは、その、大丈夫なんですか?」 「問題ありませんわ。ラカーン様ったら、初めは十人付けろなんて仰いますのよ。そんなに大勢で移動してはお邪魔になるでしょうに……」  十人が三人とは、一体どんな交渉をしたのだろうか。  気にはなるけれど、たぶん聞いてはいけないことだと直感した。 「――では改めて、まずはわたくしのおすすめの場所まで案内いたしますわ!」 「はい、よろしくお願いします」  どこか気合の入った様子でキルダさんは言い、いきなり商店街から外れた方向へ泳ぎ出す。 (そっか、貴族だから平民向けの商店街じゃないのか)  そう納得しつつ、彼女についていくミラドールさんの腕にしがみついた。  キルダさんはどんどん商店街から離れ、街からも離れ、ひと気も建物もない海を真っ直ぐに泳いでいく。  かなり遠いのか、彼女は速度を落とすことなく海を進み――そして長い道の末にくるりと身を翻して言った。 「わたくしのおすすめは、このですわ」  そう言ってキルダさんが指したのは、暗い海の中にぼんやりと浮かぶ廃墟の都市だった。  
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