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僕たちが入れた場所は比較的崩壊の少ない場所だったそうで、さすがに崩壊のひどい場所へは入れなかった。
身の安全を考えたら当然のことだ。
調査員もガレキを撤去するまでは立ち入れず、今は作業員の慎重な作業が終わるのを待っているところらしい。
ただ、崩壊のひどい場所にも遺体があるだろうとのことで調査員は心を痛めているようだった。
かつて敵だった国の民でも、やはり死者は弔ってやりたいのだろう。
「わたくしたちは、せめて亡くなられた方たちのために祈りましょう」
キルダさんの言葉には誰もが同意し、それぞれ祈りを捧げている。
海の信仰は詳しくないので、知っている方法で祈りを捧げる。
信じる神は違っても、死者を弔う気持ちは変わらない。
始まりを意味する右手と終わりを意味する左手を合わせ、終始を繋げて永遠を表す。
そして相手を想って目を閉じ、願う。
(どうか、苦しむことなく安らかにお休みください)
そっと目を開き、合わせた手を離して奥にかすむガレキを見る。
暗い海ではよく見えないけれど、大きなガレキが道を塞ぐように立ちはだかっているのがかろうじて見えた。
「……ヴィクヘンドール公爵夫人、まもなく作業員がガレキの撤去作業に参りますので、お戻り願えますか?」
「分かりましたわ。無理を言ってしまってごめんなさいね」
調査員に従い、来た道を戻って都市の外へ出る。
振り返って見た廃墟群は、はじめにこの場所から見た時とは違って見えたような気がする。
「……次は安全が確認できてからですわね」
ぽつりとこぼれたキルダさんの呟きに、僕は強く頷いた。
いつかこの都市の安全が保障されたら、今度はもっと色んな場所を見に行きたい。
きっと、誰にも知られずに眠っている人だっているだろうから……
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