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しんみりとした様子で元禁泳区画を後にした僕たちは、レイディヴァトの街中へと戻ってきた。
「それでは、私のおすすめに案内しますぞ」
まだ少し涙声でヤニックさんは言い、先導するように泳いでいく。
向かう先は商店街の端で、失礼ながらパッとしない見た目の建物をヤニックさんは指した。
「この店は私のひいきでしてな。マッキャロル先生に気に入っていただけたらと思っとります」
豪快に笑い、ヤニックさんは扉を開ける。
大きく開かれた扉の向こうにはさまざまな道具が並んでいた。
見覚えのあるものも、見覚えのないものもある。
どうやらここは調薬道具の店のようだ。
「グラーナはおるかー?」
「はいはい、ここにいますよっと」
声を張るヤニックさんにそう返し、細身の女性は持っていた道具を置いて僕たちを出迎える。
「いらっしゃいませ。ここはメニディス調薬道具店、ワタシは副店長のグラーナです」
「初めまして、魔法薬師のヴァーミリオンです」
差し出された手を握ると、グラーナさんはなぜか嬉しそうに目を細めた。
「うんうん。ヤニックじいさんから話は聞いてますよ。陸のすごい先生なんですよね」
「あ、ありがとうございます。まだまだ未熟者ですが……」
それでも、評価に恥じぬ魔法薬師でありたいと思っている。
「またまたそんな。禁泳区画の除染を成功させておいて未熟者はないでしょう?」
「まったくですな。マッキャロル先生はもっと胸を張ってよいのですぞ?」
「ええ、ええ。過分な謙遜はよくありませんわ」
「でも、ヴァン先生の決して偉ぶらないところに好感が持てるんですよ」
僕の言葉は謙遜と思われてしまったらしい。
眉尻を下げて笑うグラーナさんにヤニックさんとキルダさんはうんうんと頷き、トリシアさんまでそんなことを言い始める。
(僕、そんな大層な人間じゃないんだけどな……)
過大評価にむず痒いものを感じながら、しかし反論しても無駄なんだろうなとぼんやり思った。
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