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「――さて、グラーナ。マッキャロル先生に新品を一式揃えてやってくれんか?」
ひとしきり僕を褒めて満足したのか、ヤニックさんは真面目な声で言う。
「予算は?」
「とりあえず二十万で頼む。多少ヒレが出ても構わんから」
「おおっ、太っ腹だねえ。いいよいいよ、それなら店長のとっておき出しちゃおっか」
悪だくみをするように二人は言葉を交わし、やがてグラーナさんは店の奥へ姿を消した。
……不穏な会話は聞かなかったことにして、店内に並ぶ道具を眺める。
粉砕撹拌機一つとっても、さまざまな形のものがあるようだ。
見慣れた樽型のものもあれば、寸胴で六角形のものもある。
「最近はカクカクしたものが流行っとるようですがね、使いやすさで言えば圧倒的に丸型ですよ」
「そうですよね! 丸型は内側の手入れもしやすいですもんね!」
「あら、転がらないという点では六角型や八角型に利点があるのではないかしら。手入れの時、転がる粉砕撹拌機を追いかける必要がありませんのよ」
「あー……確かに、それはありますね」
「まさか流行っとる理由はそれか……!」
粉砕撹拌機一つで、三人がものすごく盛り上がっている。
「ヴァーミリオン先生は丸型と六角型、どちらがお好きかしら?」
「何とも言えないですね。丸型しか使ったことがないので」
素直にそう返し、戻ってきたグラーナさんへ視線を戻した。
「お待たせしましたー。こちら調薬道具一式、しめて二十万なり!」
どん、とそこに並ぶ道具たちはピカピカの新品で、見ただけでもかなり質のいいものだと分かる。
ちらりとヤニックさんを見ると、驚いたように顔を引きつらせていた。
「……いいのか、グラーナ。これなら五十万はくだらんだろう?」
普段より低い声でヤニックさんはそう確認する。
「店長に話したら二十万でいいってさ。いやー、店長も太っ腹だよねえ」
それに対しグラーナさんは至って軽い調子で答えた。
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