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太っ腹というか、そんな値の張るものを破格の値段で売ってしまっていいのか。
「……あの、本当にそのお値段でいいんですか?」
「大丈夫大丈夫! お買い得ですよヴァーミリオン先生。どうです? 買います?」
「買った!」
「毎度あり!」
しかし僕が答える前にヤニックさんが即答し、あっという間に支払いまで済ませてしまった。
「い、いやっ! 僕ちゃんと支払いますから!」
「まあまあ、マッキャロル先生。これは私からの贈り物ということで」
焦る僕へヤニックさんはそう言い、満面の笑みを浮かべる。
「ずっと、個人的にお礼がしたいと思っとったんですよ。やつの研究を継いで、完成させてくれたあなたに」
そう言われても、研究を継いだのは僕の意思ではない。
「……僕が研究を始めたのは、国王様からの依頼を断れなかったからですよ」
「きっかけはそうかもしれませんがね、それでも私はあなたの出した結果にとても感謝しとるんです」
それに、とヤニックさんは言葉を続ける。
「あなたは解毒薬の開発だけでなく禁泳区画の除染も叶えてくださった。あの中和剤はあなたの意思で開発されたと伺いましたぞ」
確かにそうだけども、それだって僕のエゴで、結果的に人のためになっただけだ。
こんなふうに感謝されるのは居心地が悪い。
「……たまたま、いい結果が出ただけですから」
「むむ、これでも気が引けますか。でしたら、これは未来への投資だと思ってください」
そう返すとヤニックさんは困ったように笑みをこぼし、スッと表情を引き締め言った。
「マッキャロル先生。どうか受け取ってくれませんか。今までの感謝と、これからの期待を」
どこまでも真剣で、真っ直ぐな目だ。
逃げてはいけないと直感させる視線を受け、迷い……
「……分かりました。ありがたくいただきます」
そして僕は、その感謝と期待を受け取ることにした。
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