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調薬道具は後ほど店の運び手が大公邸へ運んでくれるそうで、僕たちは手ぶらのまま店を出る。
「ぜひまた来てくださいね。ヴァーミリオン先生なら修理も格安で請け負いますよー」
「そ、それは適正価格でお願いします……」
ありがたいけれど、さすがにこれ以上の優遇は経営に支障が出るだろうし、何より僕の胃がもたない。
グラーナさんにはしっかり念押しして、見送ってくれる彼女に手を振りながら店を後にした。
「――さて、次はどこに行きましょうか!」
先頭のトリシアさんが僕たちへ振り返り言う。
「おや、次はリーデン先生のおすすめをご紹介するのではないのですかな?」
「よくよく考えたらあたしのおすすめは食べ物屋全般で、ヴァン先生の嗜好とはちょっと合わなさそうなんですよねー」
ヤニックさんの疑問にそう答え、トリシアさんは僕へ視線を向けた。
「ヴァン先生って、貝とかエビとかは食べられます?」
「生は食べられる自信はないです……」
「やっぱりそうですよねえ……」
素直にそう答えると難しそうな表情が返ってきた。
「いいお店なので紹介はしたいんですけど、そのお店の店長さんの口癖は『うまいぞ、かじってみろ』なんですよね」
「へえ、気前のいい店長さんですね」
残念ながら僕はそれに応えられないけれど、海の食材そのものには興味がある。
「陸では魚や貝、エビは加熱――ええと、火で加工したものを食べるので、そのお店には興味があります」
「うーん、なら行ってみます? 一応ヴァン先生の食事情は軽く話してありますけど……」
「……失礼ですが、その店の名はもしやホイラー食料品店ですか?」
と、そこまで話したところでふとミラドールさんが言った。
「そうですよ。騎士さまもご存知なんですか?」
「その店は自分の義弟の店です」
「えっ」
サラリと告げられた事実に思わず声が漏れる。
それはトリシアさんも同じようで、ポカンと口を開けたままだ。
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