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「……あのお店、騎士さまの義弟さんのお店だったんですか?」
「はい。もし義弟が暴走するようであれば自分が止めますので、どうか覗いてやってください」
衝撃から復帰したらしいトリシアさんの言葉にそう返し、ミラドールさんは笑みを浮かべる。
「義弟は人と関わるのが好きですから、皆様を快く迎えてくれるでしょう」
その義弟を思い浮かべているのか、そう言ったミラドールさんの表情は優しい。
「それなら行ってみましょうか。トリシアさん、道案内をお願いします」
「分かりました! ホイラー食料品店はこっちです!」
そうお願いすると、トリシアさんは進路を指して泳ぎ始める。
ホイラー食料品店はあまり遠くはなく、商店街の一角にあった。
分かりやすく店名の書かれた看板を掲げた、店らしい外観の店だ。
「ここです! いつもは混んでるんですけど、今はすいてるみたいですね!」
トリシアさんは店内へ進み、声をかける。
「シグさん、こんにちは!」
「おお、その声はトリシアちゃんか! いらっしゃい!」
返ってきたのは明るい男性の声で、声の主と思われる人影が店の奥で動いた。
やがて現れたのは人の良さそうな細身の男性で、チラリとこちらへ視線を回す。
「おや、そちらの皆さんは……」
「今日は前に言ってた薬屋仲間も一緒なんです!」
途中で切れた言葉にトリシアさんはそう答えるけれど、返事はない。
「……シグ、黙ってたら何も分からないぞ」
ミラドールさんの呆れたような声にシグと呼ばれた男性はビクリと肩をこわばらせ、それから固い動きで後ずさった。
「な、んで、義兄さんが……?」
「こちらの御仁、マッキャロル殿の護衛を任されているのでな」
警戒しているような、怯えているような様子で言ったシグさんへミラドールさんは至って普通のことのようにそう告げる。
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