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「――シグ、頼みがある」
シグさんとの話が途切れたところで、ミラドールさんがそう挟む。
「マッキャロル殿はあと二月足らずで陸へ帰られる。それまでに土産を用意してほしい」
「えっ」
海の食材に興味があるとは言ったけど、そこまでは考えてなかった。
確かに陸への土産にはいいかもしれない。
「ああ、そういうことか」
シグさんは納得したような表情を浮かべ、自信ありげに頷いた。
「それなら、とびきりの品を用意しますよ」
「あ、ありがとうございます」
ありがたいことに、この国は気前のいい人が多いらしい。
それから予算を伝えて見積もりを聞き、話がまとまったところでミラドールさんがふっと表情をゆるめた。
つられてかシグさんの表情からも固さが抜ける。
「ありがたい。日程は決まり次第連絡する」
「了解。あ、届け先は?」
「サーシャル大公邸だ」
しかしミラドールさんの返答にシグさんは再び固まってしまった。
気の毒だけど、僕にはどうすることもできないので許してほしい。
「なんだ。義兄の勤め先がどこか、忘れたのか?」
「い、いや……そういえば、大公様のところに陸からの客人がいらっしゃるという話だったっけ……」
「そういうことだ。よろしく頼んだぞ」
至って真面目な様子のミラドールさんに、シグさんは固い動きで頷く。
「……分かったよ。俺にできる最高の仕事をする」
そして短い沈黙の末に、シグさんは吐き出すようにそう言った。
表情には緊張がにじんでいるけれど、その目には確かな決意が灯っている。
「ヴァーミリオンさん、二月後を楽しみにしておいてください」
「ありがとうございます。今から待ち遠しいです」
頼もしい言葉にそう返し、改めてシグさんと握手を交わした。
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