ヴァン先生

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 ジーナちゃんのパンを食べ終えた僕は、ヒックさんと村外れに来ていた。  前回仕掛けた獣除けを取り替えるためだ。 「それでは、僕が東側を仕掛け直すので、ヒックさんは西側をお願いします」 「あいよ! んじゃ、いってきます!」  ヒックさんと別れ、一つ目の獣除けを仕掛け直す。  といっても、空になった瓶を薬の入ったものと取り替えるだけだ。  空瓶を外し、新しい瓶をはめ込む。これでまた獣除けとして活躍してくれるだろう。  空瓶をバッグにしまい、次の仕掛けへと向かう。  小さい村、それも半周だけならそう時間はかからないはずだ。  夕方までに全部終わらせてしまおう。そう思いながら次の仕掛けへと向かった。  作業は順調に進み、最後の仕掛けを終えたのは夕方に差しかかった頃だ。  西側を周っていたヒックさんと合流し、西回りに村へと戻る。 「ヒックさん、今日はありがとうございました」 「ははは、いいっていいって! 先生にはいつも世話ンなってるからな!」  ヒックさんは豪快に笑い、バシバシと僕の背中を叩いた。  彼のクセのようなものだ。 「そんじゃ先生、気をつけてな」 「はい。ヒックさんもお気をつけて」  そう言葉を交わし、ヒックさんを見送ってから自分の家へ帰る。  玄関を開け、灯りを灯すとテーブル一杯に広げられた薬草が目に入った。昨日から乾かしていた薬の材料だ。 (うん。いい感じだ)  それを袋へ詰めて床下にしまい、もらいもののパンとベーコン、玉ねぎを簡単に調理してテーブルに並べる。 「……いただきます」  夕食を食べながら、ふとこの村に来たばかりの頃を思い出した。 (……あれからもう二年か)  この村は本当にいいところだ。  ヒックさんや村の人達は僕みたいな――こんな得体の知れない人間を、何も聞かずに受け入れてくれたのだ。  その恩返しとして、僕にできることを返していこうと思っている。  
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