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マッキャロル伯爵家は魔法薬学の権威と呼ばれている。
日夜研究に取り組み、人々を救う薬を生み出す救世主の一族だ。
その次男であるエリオットと妻アリサの子ヴァーミリオンとして生を受けた僕は、子に恵まれなかった伯父上――ローマン・マッキャロル伯爵の養子となった。
王国の安寧のため、そして病に苦しむ人類のために、僕はヴァーミリオン・マッキャロルとなった。
……はずなのに。
「旦那様、薬の材料をお持ちしました」
「遅いぞこのノロマ!」
怒声とともに鞭を振り下ろされ腕に痛みが走った。
手が滑り、木箱の中の小瓶がばらばらと床に散らばる。
「この程度で落とすんじゃない! 役立たずめ!」
申し訳ありません、と言う前に腹を蹴り上げられ声が出なかった。
「さっさと片づけろ!」
ダメ押しと言わんばかりに鞭を打ち、声の主は腕を組み僕を見下ろしている。
「申し訳ありません」
痛みに耐えながら、急いで転がった小瓶を木箱へ戻した。
幸いなことに割れた瓶は一つもない。
(よかった……)
もし割れていたらさらに鞭をもらっていただろう。
こっそりと安堵の息を漏らし、木箱を抱え直して声の主へ差し出した。
「旦那様、薬の材料をお持ちしました」
「そこに置いておけ」
「かしこまりました」
深く頭を下げ、指定の場所へ木箱を下ろす。
「それでは失礼いたします」
「待て」
半歩下がった僕を引き止める一言を発し、彼はパシンと鞭を鳴らした。
思わず肩が跳ねる。
「不出来な息子には躾が必要だ。違うか?」
僕が答えるより前に痛みが走った。
(……また、始まった)
震え出しそうな体をどうにか抑え、次の鞭に備える。
(早く終わらないかな……)
説教する怒鳴り声を聞き流しながら、とにかく鞭の雨が止むのを待った。
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