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空港にて
「本当に行っちゃうんだね……
トンガ王国……。」
空港まで見送りに来てくれた咲が寂しそうに空を向いて言った。サロンでトリートメントした髪が、綺麗に胸元まで下りている。
「うん。
でもさ、ただの留学だから。
一段落したら、ちゃんと帰ってくるし。
わりとすぐだよ。」
そう。
彼の気持ちは、すぐダウンするはずだ。
「そうなんだろうけど。
でも、なんでトンガ王国?
私、聞いたこともなかったよ、そんな国。」
「ははは、輸入カボチャにはトンガ王国産は多いのに、チェック甘いな、咲は。
そんなんで結婚生活ちゃんとやっていけるの?」
「ギクッ。
いいじゃん。産地なんか知らなくても。
食べ物は、上手く料理できるかどうかよ。」
咲は返事を避けるようにケーキを頬ばった。
「そうね。」
私は短くうなずいて、オレンジジュースを一口飲んだ。
「あーあ、でも、亜衣に結婚式に出てもらえないなんてショック。私達、親友のはずでしょう?」
「そうよ、親友よ。」
だから離れるのよ、咲。
あなたから。
ううん、
あなたの彼氏から。
「彼氏のマリッジブルーに気をつけてね、咲。」
「そんなんないよ、うちのは。」
疑おうともしない親友に、私はただ笑んだ。
「まあ、式も間近だし、もう心配ないよね。」
「そうそう。
ってか、本当になんでこのタイミング?
式までたった2日なのに。」
「向こうの学校の都合とかあってさ。
ごめんね。」
「うん……。」
咲は頭では理解できるけど、といった様子だ。
可愛いな、咲は。
大好きよ。
だから、監視していたの。
あなたの彼氏を。
彼氏から誘われたその日からずっと。
あなたには言わないけど、彼は結婚が決まったとたん、周りの女の子たちに誘いをかけるようになってた。私にまでよ。結婚を前にした男なんて、そんなものなのかな。
でもそれは、裏を返せば、結婚したら浮気は御法度っていう意識があるってことよね、きっと。
……カボチャの国に行ってみたい。
そんなことを言ったのはね、あなたの彼氏のプライドを折るためよ。自分よりカボチャを選ばれたら、腹立つよね。
けなされたショックと怒りで、もう浮気をする余裕もないと思うわ。
自分をコケにした女にイライラしながら、あなたの笑顔を見て思うのよ。
こいつはいい女だなって。
だから……咲、このタイミングであなたから離れるの。
親友の結婚式に出られないなんて、私も寂しいけどね。
ま、式が終わって一段落した頃には、様子を見に帰ってくるから。
「お土産は、なにがいい?」
「うーん……。変な置物。」
私は吹いた。
「あるある、あるね、旅先には。」
「……気をつけてね。
ちゃんと帰ってきてね。」
「ラジャ。
あ、そろそろ出よう。」
「うん。
なんか本当に名残惜しいー!」
最後まで可愛いことを言ってくれる親友に、私は笑顔で応えた。
幸せにね、咲。
帰ってきたら、また守ってあげる。
あなたのことが大好きだから。
私はふいにこみ上げた涙をクシャミのふりで隠して、席を立った。
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