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幼馴染
宇田川 明子(うだがわ あきこ)は、小林 武(こばやし たけし)とは幼馴染だ。今は9歳。小学校の3年生だ。
家が一軒隣同士で、お父さんの実家に住んでいるのも一緒で、そういう訳なので、お互いの家のお祖父ちゃんもお祖母ちゃんもお父さんもおかあさんも良く知っている。
武君はさっきから、蟻の穴に砂を入れて埋めている。
「かわいそうだからやめなよ。」
「なんでさ、さっきから、蟻はバッタ襲って殺して運んでるんだぜ。」
こんな話をしている時に、明子はふっと武君のお祖父ちゃんが亡くなった時の事を思い出した。
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明子と武は、幼稚園に上がる前のもっと前の赤ちゃんの時から近所の公園でお母さんと一緒に毎日遊んでいた。
その頃のお話だ。幼稚園に入る前の3歳くらいだっただろうか。
公園遊びの後、どちらかの家に遊びに行き、そのままお昼を食べて帰ってくることが多かった。
もちろん、お昼を食べるときにはお祖父ちゃんやお祖母ちゃんも一緒だ。
明子は、武君の家のお祖父ちゃんがちょっと怖かった。いつもあまり口をきかないし、ご飯やお茶をお代わりするときも、
「ん」
と、言って武君のお母さんにお茶碗かお湯のみを差し出す。
武君のお母さんはごはん中にあまり座っていたことがない。
かといって、明子の家で武君と武君のお母さんがお昼を食べて帰ると機嫌が悪いんだそうだ。世間体が悪いとかっていうんだって。
武君のお祖母ちゃんはいつもニコニコしているけど、お祖父ちゃんが、武君のお母さんにいろいろ言いつけても、お祖父ちゃんに注意なんてしないでその時もニコニコしている。
明子の家では二世帯住宅とかいうので、お祖父ちゃんとお祖母ちゃんはご飯は別に食べるし、用があればお祖母ちゃんが明子たちの住んでいる家の方にピンポンして入ってくる。
だから、本当は明子の家で一緒にご飯を食べれば誰にも何にも言われないのに。と明子は思った。
明子のお母さんも気を使って
「お昼はなるべくお家で食べようね。」
とこっそりと明子に言うのだが、公園で明子たちが遊んでいる間にいつの間にか、武君の家でお昼を食べる事になっている日が多かった。
そんなある日。お昼を食べている途中で、武君のお祖父ちゃんが何かをのどに詰まらせてしまった。
苦しそうに、お茶を飲もうとした時、
『スッ』と、お湯のみを武君のお祖母ちゃんが遠ざけた。ような気がした。
武君のお母さんは最初驚いた様子だったけど、武君のお祖母ちゃんと目が合うとう頷いて
「さぁ、縁側でデザートのスイカを食べようか。」
と言って、隣の部屋の縁側に明子と武君を連れて行った。
明子のお母さんは武君のお母さんと目が合うと頷いて、明子と武君を隣の部屋の縁側でスイカを食べる様二人の面倒を見ていた。
その次の日に武君のお祖父ちゃんが亡くなったと聞いた。
武君のお家のお葬式は町のお葬式屋さんですることになったので、明子と明子のお母さんは、武君のお祖父ちゃんのお葬式に行った。
武君のお祖母ちゃんとお母さんはハンカチを握ってはいたが泣いてはいなかった。
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その時のことを、明子は武君に覚えているか聞いてみた。
「覚えてるさ。俺たちまだ小さかったけど、あの時の事は覚えてる。」
「あの時さ、武君のお祖母ちゃん、お湯のみお祖父ちゃんから取れない所にずらしたよね。」
「そうそう。祖父ちゃんはさ、祖母ちゃんにも、お母さんにもめっちゃ威張っててね。時々はひっぱたいたり蹴ったりしていたんだ。」
「俺が止めようとしたら俺の事だって投げ飛ばしたからね。」
「祖母ちゃんとお母さんは前から祖父ちゃんが喉を詰まらせたら放っておこう。って話していたんだよ。」
「それに自分ばっかり毎晩お酒飲んで暴れてさ。祖母ちゃんもお母さんもお酒好きなのに家では飲ませてもらえなかったし、外食なんて祖父ちゃんゆるさなかったし。」
「え?そうなの?じゃ、あれはわざとだったのね。」
「もしかして、そのままお祖父ちゃん死んじゃったのかな?」
「そうだよ。祖父ちゃんはお母さんと祖母ちゃんに見守られて死んだんだ。」
『見守られて?』明子はちょっと変な感じがした。
「誰も喉の詰まったお祖父ちゃんを助けなかったという事だよね。」
「そうだよ。もう、祖母ちゃんとお母さんはうんざりしていたんだ。僕もね。」
「で、明子ちゃんのお母さんにももし喉を詰まらせたら、合図はデザートね。って頼んでおいたんだよ。」
「だから、警察に聞かれても、明子ちゃんのお母さんが
『お祖父さんが喉を詰まらせた後すぐに救急車を呼んだ。』
って言ってくれて、だれもお巡りさんに怒られなかったんだよ。」
「これで、やっとお酒が解禁だわ!ってお葬式の夜はお父さんほったらかしで祖母ちゃんとお母さんはお酒すっごい飲んで喜んでたよ。」
3年生。それはまぁ、女子の方がいろいろとおませでわかってくる年頃だけど、このお話はお母さんにも内緒にしておいた方がいいな。と明子は思った。
そして、武君にも
「今日、このお話した事、武君のお祖母ちゃんとお母さんには内緒ね。」
と、一応釘を刺した。
そうじゃないと、そのことを知ってしまった明子とお母さんも、武君のお祖母ちゃんとお母さんに見守られることになりそうだったから。
それからは、明子はあまり武君と一緒にいないようにした。
これらが、明子が武君と離れた理由だ。
【了】
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