どうしたって好きだから

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「──のこと、わかりますよね?」  でも名前は口にするな、という無言の圧をかけられ、戸次はこくこくと素早く二度、頷く。  すっと、義弥はサングラスの位置を元に戻すと、再び微笑んだ。 「だったら話が早いですね。私がこのまま稜を連れて帰りますので、あとは任せてください」  呆然とする戸次をそれ以上構うことなく、義弥は稜の手を取った。  急に立ち上がったせいで、まだ酔いの醒めない稜は前のめりに大きくバランスを崩してしまう。 「稜兄ちゃん、真っすぐ歩けないみたいだね」  不安そうな義弥の声色は、つい今しがた戸次に向けて放たれた、ぴりっとしたものとは百八十度違う、いつも稜に向けられる人懐こいものだった。  義弥を見る視線に戸惑いが現れていたのだろうか。 「ごめんね。ちょっとだけ我慢して」  言い終わるや否や、義弥は前のめりになっていた稜を、脇からそのままひょいと抱え上げた。 「え?」  酔いが醒める思いがした。 「すぐ近くに車が控えているんだ。酔ったその身体で人混みを歩くのは危ないから、僕が抱っこしてってあげるね」 「い、いや!」  驚愕から大声を出してしまった稜の唇に、義弥はしっ、と自らの人差し指を立てた。  自らの軽率な行動に、しまった、と後悔する。  今や、義弥は世界でも通用するようなプロのモデルに上りつめたのだ。
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