どうしたって好きだから

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「あほだろう」  同僚の戸次(とつぎ)から、もう何十回、何百回と聞いたストレートなもの言いに、今日も稜はオフィスのデスクで撃沈する。 「……返す言葉もございません」  ちょうど三年前、義弥とケンカをした直後、稜は都内化粧品メーカーの営業職へ就職していた。  片道一時間半、往復で約三時間。  通勤には少し時間がかかりすぎるとわかっていた。  しかし、当時の稜は義弥と離れる未来なんて何ひとつ想像してなかったし、また義弥も絶対に自分から離れていかないだろう、なんて妙な自信もあった。       だからいくつか内定をもらっていた中で、一番給料の良いこの会社を選んだのだ。  というのは、建て前で。 「は、またすごいところと契約したらしいな」  隣の席から出てきた戸次は稜のデスクトップパソコン奪うと、あっという間に、義弥の顔のどアップへ切り替える。 「うわ、なんだこれ。俺、知らないよ」 「そりゃそうだ。つい一時間前、情報解禁になったばかりのやつだからな」  得意げな戸次は入社してから三年、同じ部署へ配属された唯一の同期として、何かにつけて「義弥」と騒ぐ面倒くさい稜のよき相談者になってくれている。 「それにしても『yoshi』がこの仕事を受けたってことは、とうとう海外進出ってことだよな」  戸次は顎に手を当てながら、被写体である義弥以外、全てが夜の海のようにゆらゆらと真っ暗に揺れる神秘的な画像を眺めていた。  海外進出……。  戸次の言葉に、稜の心が嫌なふうにちくりと揺れる。
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