123人が本棚に入れています
本棚に追加
「戸次ぃ。俺は過去の自分が情けなくて泣いてしまいたくなる」
途端、稜はめそめそと泣きだす。
「もう泣いてるだろ」
容赦なく突っ込む戸次は、セットしていた自身の後頭部をぐしゃぐしゃと掻きあげる。
「俺の今日の最大の失敗はお前に義弥の情報を教えたことと、そんなやさぐれたお前に酒を大量に吞ませてしまったことだな」
俺の方が泣きたいわ、と頭を抱える戸次など、今の稜には配慮する余裕さえない。
だから稜も一方的にしゃくりあげながら、「もう三年だよ、三年。俺は三年前の義弥のことしかわかんないんだよ」と、べそべそと目の前の戸次に繰り返し不満を訴える。
「わかった。悪かったって」
面倒くさそうに両掌を稜へ向け、降参のポーズで謝罪する戸次にそれでもまだ突っかかっていく。
「なにがわかったの? わかってないよ」
すでに閉店した店の壁面に背を預けると、ずるずると力なく稜は地面に座り込む。
それから絶え間なくこぼれ落ちる涙を、無造作にグーの手でぐしぐしと手の甲で擦り続けた。
「俺は、義弥と逢えなくなってとっても淋しいし、謝れって戸次は簡単に言うけど、連絡先も変えられて、隣に住んでるのに、いや、もしかしたら有名人だからもう隣に住んでないかもだけど……後ろ姿さえ、見ることができなかったらどうにもできないじゃん」
わあ、と年甲斐もなく大泣きをはじめた稜に、再び行き交う人々が好奇の視線を向けてくる。
やがてどこからともなく高価な男性の革靴の足元が近づいてきて、泣きだして止まらない稜の視界へ入った。
隣で大きく息を呑む戸次の気配がする。
あ、これは騒いでいたから絡まれるやつかな、と稜はぎゅっと背を縮こませ身構える。
予想に反して革靴の主は、稜と目線を合わせる位置まで身を屈めると、じっとサングラス越しに顔を覗き込んできた。
「どうして泣いてるの?」
雑踏に紛れるほどの小さな声だったが、間違いなく聞き覚えのある声だった。三年前までは。
最初のコメントを投稿しよう!