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「今度、転校してきました九条百合子です。宜しくお願いします」涼やかな声が教室に響いた。
十月のある日、美しい少女が転校してきた。
少し青白い細面の顔に黒く長い髪の毛をさらさらと伸ばし、すらりとした制服姿はバービー人形のようだった。二重瞼のぱっちりとした目、すっきりとした鼻筋、鮮やかな赤い唇は口紅を塗ったようだ。
「奇麗な子だね。うちの中学一の美人だね。憧れるわぁ」
楓子の親友の雅美は、一目で九条百合子のファンになってしまった。
積極的な雅美は、さっさとクラスメートと交渉して、百合子の隣の席を確保した。授業の進み具合や、掃除当番、給食当番等についてあれこれ面倒を見てやって、すっかり親友気取りだ。
百合子の方は、物静かににこにこと雅美の言うことを聞いている。
一週間程経ったある日のこと、体育の着替えをしている時、楓子は雅美が何時もしているお揃いの銀のペンダントをしていないことに気が付いた。
「雅美、ペンダント無くしちゃったんだ」
「ごめん。無くしたわけじゃないんだけど、百合子が欲しがるから、ほんのちょっとだけ貸してあげたの」
楓子は心の中で腹を立てた。『酷いわ。友情の証にって、いつまでも一緒にしていようって約束したのに・・・』
そのペンダントは楓子の叔母がスペインで買って来てくれたお土産だった。楓子と友達にといって、同じものをくれた。
さらに腹立だしいことに、あくる日、そのペンダントが校舎の裏庭の片隅に落ちているのを見つけた。『こんなことしなくてもいいじゃない』楓子はペンダントの泥を落として鞄に入れながら、悔しさで顔が熱くなった。
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