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「陽菜ちゃん。いるの? いたら返事して」
林の中は薄暗く、足元の枯れ枝を踏みながら進むと、奥の方に何かが倒れている。
「陽菜?」
歩みを進めると、やはり陽菜だった。傍に跪いてその手を取った。身体を揺すってみた。
「陽菜ちゃん、起きて」
陽菜はピクリとも動かない。息をしているかどうかわからなかった。
と、その時、何かが跳び掛かって来た。
獣のようだった。血腥い臭いがした。
突き倒されて、目の前に獣の顔が迫った。目をギラギラさせた百合子だった。
二十年前の吊り橋の恐怖を思い出した。
『今度は私が戦わなくては』
あらん限りの力で、百合子に組み付き、殴りつけ、蹴り飛ばした。
一度は倒れたものの、百合子は何事も無かったように立ち上がって楓子にゆっくり近づいて来た。
真っ赤な唇を歪めて薄笑いしている。
と、百合子の身体が突然揺らいだ。どうやら、木の根に足を取られたらしい。
この時とばかり楓子が落ちていた木の杭を拾って百合子に突進したため、避けようとした百合子はさらにバランスを崩して仰向けに倒れた。
楓子は百合子の胸に杭を渾身の力で突き刺した。
「ゲホッ」と発した後、百合子は動かなくなった。
大きく見開いた目は凍りついたように動かなかったが、楓子を憎々しそうに見つめていた。
そして、百合子の身体はゆっくり消えて行った。
あとには、胸に刺した杭と百合子の服だけが残った。
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