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次の日、楓子は夕方保育園にお迎えに行った。
いつも元気に楓子に飛びついてくる陽菜が、今日は部屋の隅にしょんぼり蹲っている。
「陽菜ちゃん。お待たせ。帰りましょ」
顔を見ると、泣いていたようで目の周りが赤くなっている。
「どうしたの」と聞いても、俯いたままで黙っている。
その時、開け放してあった部屋の入り口から一人の女性が廊下を歩いていく後ろ姿が見えた。髪の長いほっそりした女性だった。
「きっとあの人が、栗林先生なんだわ」
陽菜もご飯を食べた後は普段通り元気になった。
達也と陽菜がお風呂でお喋りしているのが、台所で後片付けをしている楓子にも聞こえた。
「ねえ、パパ、影法師のない人っている」
「影法師? そんな人いないよ。人だけじゃないよ。犬だって猫だって影法師は持っているんだよ」
「そう」
「面白いことを聞くね。どうしたんだい?」
「今日、お庭で皆で鬼ごっこしたの。その時にね、先生には影法師がなかったの。他の子にはあるのに、先生だけ」
「それは変だね」
「それでね、陽菜が『先生は影法師がないの』って聞いたら、先生が凄く怖い顔をして、陽菜を睨んだの」
「影法師のない人なんていないから、陽菜が見間違えたんじゃないかな? 明日、よく見てごらん」
「うん。そうする」
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