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とりあえず意を決して口を開いてみる。
「あの……深澤さん、こんにちは」
すると深澤は読んでいた本から視線だけを動かし日菜乃を見つめた。
「あぁ、三枝さん。こんにちは。まさか社外で会うとは思いませんでしたね」
「そ、そうですね……」
それから深澤は再び視線を落とし、本の続きを読み始めた。
日菜乃は眉間に皺を寄せる。ちょっと待って、それだけ? 他に言うことないの? しかも敬語っておかしくない? 彼の無感情な言葉と無表情に不安を煽られながら、日菜乃は頭を抱える。
深澤は同期入社の社員の中でも、どちらかというと物静かであまり感情を表に出さないタイプだった。冷たいわけではないが、心が読めないため何を考えているのかよくわからない。同期会を開いても女性とはあまり話さず、どちらかといえば同性ウケの良いタイプだった。
「あの……今の会話って……」
「もちろん聞いてたよ。まさか三枝さんが都合の良い女とは知らなかったけど」
なるほど……毒舌なのね。たった一言で顔面ストレートパンチを受けたようなダメージを受けた。
優奈ちゃんと同じようなはっきり言うタイプか……ここは早く切り上げよう。そう思った時だった。
「時々さ、必死に残業を終わらせて嬉しそうに帰る日があるよね。それって呼び出された日だったんだなって納得したよ」
「そ、そんなにあからさまな態度だった……?」
「わかりやすいなって思った。ただ次の日の朝は元気がないことが多いよね」
何も進展せずに、いつも通りデートが終わってしまった落胆。それすらも態度に出ていたと思うと落ち込んだ。
「ねぇ……深澤さんはどう思った?」
日菜乃が聞くと、深澤はゆっくり顔を上げる。本に栞を挟んでテーブルに置いた。
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