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「あのね、今の私たちの話を聞いて……やっぱり私、バカみたい?」
「まぁ……さっきのお友達が言うことはもっともだと思う。都合の良い女の典型だよね」
「……」
「ただお友達な言い方もね。あんな風に言われたら、三枝さんは逆に彼の肩を持ちたくなるんじゃない? 彼はそんな人じゃない、とか、何も知らないくせに、とかさ。私は彼の良いところをたくさん知ってるんだからって、反発してより燃え上がりそう」
日菜乃は目を見開いた。彼の言う通りだった。優奈に強く言われれば言われるほど、彼への想いを強くしていたのだ。
唇を噛み締めた日菜乃を見ながら、深澤は眼鏡をクイっと人差し指で上に上げる。
「まぁ別に俺には関係ないからさ。どうせ誰に何を言われたって、三枝さん自身の気持ちは変えられないだろうし。ただ……」
そこまで話すと、深澤は下を向いて本を手に取る。
「今って楽しい?」
「えっ……」
「入社してすぐの飲み会の時、趣味はドライブって言ってたよね。運転が好きで、一人でふらっと出かけるのが楽しいって。今は行ってる?」
彼の言葉を聞いて、驚いて言葉を失った。図星だったのだ。ただそのことは誰にも話してない。それを言ってしまえば相手に攻撃材料を与えてしまうから、ずっと自分の心に留めていた。
「なんかさ、昔ほど楽しそうに見えないんだよね」
「だって仕事は大変だし……」
それ以上反論することが出来ず、日菜乃は口籠った。
「あんな昔のこと……よく覚えてるね」
「記憶力は良いんだ。他のみんなの趣味だってちゃんと覚えてるよ」
「なるほど……」
そこまで話したところで優奈が戻って来たため、二人は口をつぐんでしまった。
「トイレめちゃくちゃ混んでた〜」
「そ、そうなんだ」
優奈が席に着くのと同時に深澤は荷物をまとめると、席を立って店を出て行ってしまった。日菜乃は何も言えずに、ただ黙って彼を見送るしかなかった。
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