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 深澤が出て行った後も、優奈の小言は続いていた。しかし頭の中では先ほど深澤に言われた言葉がぐるぐると渦を巻き、日菜乃の心をモヤモヤさせていく。  小さい頃から車が好きで、免許を取ってからは時々思い立ってはドライブに行った。ガラガラの道路、真っ暗な車内、大好きなBGM。自分だけの空間と気兼ねなく過ごせる時間が大好きだった。  だけどいつからドライブに行かなくなった? きっと先輩にいつ呼び出されてもいいように、なるべく予定を入れなかったんだ。  だけど期待していた日に連絡はなくて、仕方なく一人で過ごす日ばかりだった。  ずっと我慢してた……本当はやりたいこともたくさんあったけど、一度でも断ったらもう誘われない気がして怖かった。だから彼優先の自分を作り上げたんだ。  でも……それってどうなんだろう。もし付き合っても、私はずっと"自分自身"を諦めて我慢していかなきゃ、いつか捨てられる恐怖に怯えていくような気がする。きっといつまで経っても対等になることはないに違いない。  私を押し殺すこと、それって楽しい?  その時、深澤の言葉が日菜乃の頭の中に蘇る。 『どうせ誰に何を言われたって、三枝さん自身の気持ちは変えられないだろうし』  本当にその通り。自分で気付かない限り、何も変わらない。 「日菜乃ってば、ちょっと聞いてる?」  優奈に声をかけられ、日菜乃は勢いよく顔を上げた。その表情は先ほどまでの暗いものではなく、どこか吹っ切れたような明るいものに変わっていた。 「優奈ちゃん、ごめん。今日は帰る」 「はぁっ? いきなり何よ」 「ちょっとやりたいことが出来ちゃったの」 「そんないきなり……」  お財布からお金を取り出してテーブルに置くと、日菜乃は荷物を持って店を飛び出した。 * * * *  深澤さんがあんなこと言うから……。日菜乃はウキウキした気分でスマホを取り出し、ここから一番近いレンタカーの店を調べ始めた。  その間もずっと、かつてドライブをする時に感じていた爽快感が身体中を駆け巡っていた。あぁ、早く運転したい……するからにはやっぱり高速には乗りたいなぁ。  そして見つけた店に向かって歩き始めた時、ふと日菜乃の頭に深澤の姿が浮かんだのだ。  記憶力が良いって言ってたけど、それでも覚えていてくれたことが嬉しかった。逆に私は深澤さんの趣味を覚えていないんだから失礼な話よね。  日菜乃はスマホを握りしめ、それから深澤にメッセージを打ち始める。 『先ほどは失礼しました。もし良かったら、これから一緒にドライブなんてどうでしょう?』  ドキドキしながら送信ボタンをタップしたのに、すぐに返事が来た。 『こちらこそ。是非ご一緒させてください。』  日菜乃の顔には久しぶりに笑顔が溢れる。待ち合わせ場所を伝えると、足早に店に向かった。
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