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3
しばらく地下トンネルを進み、外に出る頃には辺りは暗くなっていた。
車を駐車場に停め、外へと出た日菜乃は感嘆の声を漏らす。澄んだ夜空に、月と星が輝きを放ち始めている。
食堂が入る建物は近くだったが、すぐに入るのはもったいない気がして、二人は車のそばの見晴らし台に登った。
「きれい……」
「俺もこんな星空を見たのは久しぶりだな。今日は誘ってもらえて良かった」
深澤が優しく微笑みかけたものだから、日菜乃は胸がほっこりと温かくなるのを感じた。
だがその穏やかな空気を破るかのように日菜乃のスマホから着信音が響く。カバンからスマホを取り出すと、画面には『先輩』の文字が光っていた。
いつもならすぐに電話に出るのに、今日は迷いが生まれていた。
「出なくていいの?」
何よりも大事だった先輩からの連絡なのに、なんで嬉しくないんだろう。この電話に出てしまったら、今すぐこの場から去らなければならないかもしれない。そう考えると悲しくなった。
スマホの画面を見つめたまま微動だにしない日菜乃を、深澤はただ黙って見つめていた。そうしている間に音が止み、再び静寂に包まれる。
「……切れちゃった」
「折り返せば?」
確かに今なら間に合うかもしれない。でも不思議と電話が切れたことにホッとしている自分もいた。
「うん……今はいいや。せっかくここまで来たのにもったいないじゃない?」
「そうだね、俺も同感」
日菜乃は深澤の顔を興味深そうにじっと見つめる。その視線に気付き、深澤は困ったように笑った。
「何?」
「今まであまり話したことがなかったけど、深澤さんってすごく話しやすい」
言葉は少ないけどきちんと意思を伝えてくれるし、日菜乃の言葉を受け止めてもくれる。一方的ではないやり取りが心地良かった。
「三枝さんはその人のことがやっぱり好きなの?」
「そりゃあ好きだよ。カッコいいし、男らしいし。みんなの憧れの先輩だったんだから」
「ふーん……」
「でも……よく考えたら彼女がいるのに誘ってくるって、誠実ではないよね。デートも家ばっかりだし……」
それが当たり前だと思っていたけど、実はそうじゃないかもしれないと思い始めたのはついさっき。
「急に誘われるようになったから浮かれちゃったのかな。頑張れば彼女になれるかもって、意地になっちゃった部分もあるのかもしれない……」
彼女の次に気にかけてもらえているのは自分だと思ったら、勘違いしてしまったんだ。
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