6人が本棚に入れています
本棚に追加
10年後
平石真希は、マンションの自室で猫を膝に抱いてクッションに座ってくつろいでいた。
目の前の一人用テーブルには、コーヒーとクッキーがあった。
CDプレーヤーからは、彼女のお気に入りのアーティストの曲が流れていた。
そうして、好きなものに囲まれる至福の時を満喫していた。
仕事も結構順調で、一人の気楽な生活は悪くなかった。
君島とはもうしばらく会っておらず、連絡も取っていないが、彼は長野の実家に帰ったらしい。
真希は国江のアドバイス通り、徐々に君島と疎遠になって自然消滅することに成功した。
元々19世紀の文学を愛する2人はアナログ志向で、携帯に依存することを避けたので、会う機会が減ると急速に絆がほどけていった。
会う機会を減らすため、真希は大学3年の時他の大学に編入するという手段をとった。
もっともそれは、君島との距離を広げるためばかりではなかったが。
真希は君島がいやになったのでも嫌いになったのでもなく、2人が客観的に相性が良くないという事実を、理性のみならず感情面でも認めることによって、友好的に関係を解消することができた。
川辺を散策した日、君島が漏らした一言が決定打となった。
君島卓は、猫アレルギーだった。
(了)
最初のコメントを投稿しよう!