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けれども、婚姻届は所持品になかった。皆がざわついた。
「婚姻届、出したんじゃないかな?」
ヒロノブが言った。夜間でも区役所の守衛室で受け付けてくれるはずだという。
「あいつ、自分の戸籍に父親の名がないから……亡くなる前に籍をちゃんとして逝ったのかもしれない」
堺さんがしんみりと言った。
「ナオキの足取りに繋がるから、明日の朝一番で区役所に捜査員を行かせ調べさせる」
熊谷さんがそう約束してくれた。
所持品の中には、指輪のケースがあった。
「そのケースも開けてご覧なさい」
ママに言われてケースを開けると、中にはダイヤに囲まれたピンク色の石が輝く指輪があった。
「梶さん、覚えてるでしょう?」
「ああ。赤間の、ナオキの父親のお母さんが、忍さん、ナオキの母親にプレゼントした指輪だ」
「これはね、ナオキのお嫁さんに渡して欲しいと忍ママから預かっていたの。ナオキに渡したら、千鶴にプレゼントするって嬉しそうに言っていたわ」
私はナオキの棺の側に寄り、ナオキの冷たい顔に手を当てて泣き続けた。
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