1章 忍冬(すいかずら)

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 千鶴の部屋に転がり込んで、もうすぐ一年。  それまでは、高校時代の親友の部屋に居候していた。裕福な開業医の息子だったので、3LDKと部屋数の多い、無駄に広いマンションに住んでいた。  三つある部屋の内、一部屋は親友の部屋、もう一部屋はそいつの衣裳部屋代わりになっていたが、もう一部屋が全く使われていなかった。親が購入したマンションだしと、時々頼みごとを引き受けるのを条件に、その一部屋を高校卒業から家賃なしでずっと使わせてもらっていた。  親友は医学部を出ると、大学病院の研修医になって、そのまま勤務医になった。そうなると当直があるし、こっちも昼夜逆転したりしなかったりと不規則な生活だったから、顔を合わせることなんかたまにしかなく、一緒に暮らしている感覚はなかった。  やはり高校の友人で、一番町でバーを経営しているヒロノブに、千鶴と一緒に暮らし始めたと話したら喜んではくれたが、驚かれた。女と暮らすなんて、俺が束縛に耐えられなくてすぐ駄目になるだろうというのだ。 「お前みたいな自由人が、いつまで続くかな」と俺に言った後、千鶴には、「長く続けるコツは、こいつを自由に泳がせておくことだよ」なんて偉そうにアドバイスしてたっけ……。
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