1章 忍冬(すいかずら)

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 寛大な千鶴だが、さすがに部屋で煙草を吸うと嫌な顔をする。  わざとらしくコホコホと咳をして、窓を開けて手で煙を扇ぎながら、「ここの部屋は、私が借りているんだからね……」と言うから、そこは折れて家では禁煙を守っている。  美智香ママにうっかり話したら、俺のことを昔から知っているママに大笑いされた。 「ナオキが禁煙するなんてねえ……」  とはいえ、やっぱり時々吸いたくなるから、そんな時は勾当台(こうとうだい)公園を根城にするホームレスのおっちゃんの所に行って、二人で煙草を吸う。  おっちゃんに千鶴は元気かと聞かれるので、ある時、その流れでつい、「おっちゃん、誰かが家にいる生活ってのもいいもんだな」と、漏らしてしまった。 「あ、ごめん。ホームレスのおっちゃんに言うことじゃないよな」  俺が謝ると、おっちゃんはにこにこ笑っていた。 「気にすることじゃないぞ。俺も昔はあったかい家庭を持っていたから、すごくわかるさ。それに俺は、千鶴ちゃんが幸せなのが嬉しいんだからな。いいか、そんなことより、もし千鶴ちゃんを泣かせたらただじゃおかねえぞ」  おっちゃんは、千鶴を本当の娘のように思ってくれていた。
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