1章 忍冬(すいかずら)

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 美智香ママは母の死後、俺がマンションを引き払わなければならなくなった時に、「高校と、できれば大学も行きなさい。その位のお金はお母さんが遺してくれているから」と言い、「高校を卒業するまでは、うちに住みなさい」とも告げた。 「いやだよ。オ●マに襲われたらどうする」  迷惑かけたくなくて、そう言って一緒に暮らすことを拒否したが、母との約束だからとママは折れなかった。  俺はとりあえず中学を卒業するまでと思って、美智香ママの家で世話になることになった。その時点では、高校にも大学にも行くつもりはなく、中学を出たら国分町で働こうと考えていた。  母が借りていた部屋の退去期限は母が亡くなった月の翌月、ちょうど夏休み中の七月末だったので、夏休みに入ると俺は、美智香ママと何日もかけて母の遺品を整理していた。  店を開ける時間になり、美智香ママが店へ出かけて行った後、母が大切にしまっておいた桐の文箱を見つけた。中には、書きかけの原稿の束と、1枚の写真、それに何通かの手紙が入っていた。写真はまだ二十代の母と、見知らぬ男が写っていた。  これが父だと、直感的に思った。
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