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3.オムライス
マヤの言う夕ご飯が補給のことだとわかった。
補給はいつも大体決まったものだった。
四角くてパサパサしたビスケットか、チューブに入ったゼリー。あるいは牛乳だ。
でも今目の前にあるのはそのどれとも違っていた。
黄色くてなんだかほかほかしていて、赤いなにかがかかっている。
「どうしたの? オムライスだけど。もしかして嫌い?」
「おむらいす」
「……そうか。こういうのも食べさせてもらえてなかったのね。これだから研究者は嫌よ。自分が食べ物に興味ないからって他人にまで同じ価値観を押し付けるから」
なにやら険しい顔をしているマヤに首を傾げると、はっとしたように彼女は表情を戻してこちらを見た。
「まあ、とにかく食べてみて」
差し出されたスプーンをそろそろと手に取る。本で見てはいたけれど、実際に使うのは初めてだ。悩んでいると、マヤが目の前でスプーンを取り上げ、オムライスにスプーンをめり込ませた。
ひょい、とすくい上げ、口に運ぶ。
やってみて、と目で促され、僕はスプーンを構えた。えい、とおむらいすに突き立てる。
すくえた。
中身をそろそろと口に入れると、口の中の温度がほんわりと上がった。
「どう? おいしい?」
「……よく、わからない」
「おいしくない?」
「パサパサもトゥルトゥルでもなくて、なんか柔らかい」
うまく言えない。けれど、なぜかスプーンが止まらない。夢中でかきこむと、マヤが、こらこら、と言って僕の頬に触れた。
「慌てない慌てない。ご飯はゆっくりしっかり食べなきゃ」
「でも、先生は補給は最低限の時間で済ませろって」
「……そうね。確かにあなたが空を見ていてくれないと私たちは終わるかもしれない。でもね」
マヤは僕の口元を布で拭きながらひそめた声で言った。
「でも私は仕方ないことだって思っているの。だって私たちの方が、あの星を侵略しようとしたんだもの。彼らが怒ってやってくるのも仕方ないこと。その罰を受け入れもせず、あなただけに守らせるなんて、やっぱりおかしいから」
「……攻めてくるのはあっちだろう?」
尋ねた僕に、マヤは瞬間息を呑んでから、そうね、と呟いて、顔を元の顔に戻し、
「さあ、食事の続きをしましょう」
と、言った。
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