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1.僕の役目
凸レンズのようにドーム状になったガラス窓を、部屋の中央に横たわりただ、見上げる。
少し、意識を飛ばしてみる。
ああ、今日もいる。この星を狙う「敵」という存在が。
ふうっと小さく胸に空気を入れ、僕はその敵に向かってただ念じる。
「落ちろ!」
思いは遠く中空を滑り、奴らの元へと届き、そして赤い花火となって彼らを打ち滅ぼす。
これが、僕の役目。
ずっとずっと、そうだった。
自分がいつ生まれたのか、そもそも自分がなんなのか。僕はよくわからない。
ただ、僕を作った人たちが言うには、僕は「兵器」であるらしい。
「この星はもうずっと長いこと、戦争をしている。
私たちが悪いんじゃない。滅びに瀕した自分達の星に変わる住処を求めてやってきた奴らが、我々の星を奪おうとしているんだ」
僕を育ててくれた先生は繰り返し僕に言った。
奴らは敵だ。決してこの星に入れてはいけないと。
だから僕はひたすら空に意識を馳せている。侵入者がこの星に足を踏み入れないように。
もしも踏み入ろうとしたのなら、容赦なく撃ち落とすために。
おかげでなのか、この星に「敵」が侵入したという話は聞かない。
でも、ときどき思う。
僕は、一体なんなのか、と。
姿かたちは先生と変わらないように見える。
けれど先生とはなにかが違う、と感じる。
太陽が数え切れないほど地平に消えていくたびに、先生はなんだか干からびていくように見えるから。
大きかった背中が丸くなり、張っていた皮膚にしわが寄っていくように見えるから。
「ねえ、どうして僕は先生と違うの」
そう尋ねると、先生は顔をしかめて答えた。
「私はただの人間で、お前はとてつもない力のある兵器だからさ」
「じゃあ僕は先生のように小さくなったりかさかさになったりしないの?」
「しないな。お前は半永久的にそのままだよ。そのまま、外敵を倒し続けるのさ」
半永久的。
それがどれくらいの長さなのか、僕にはわからなかった。
けれど、その半永久的が先生にはないことだけはわかった。
ある日、いつもなら僕のところに挨拶に来る先生がやってこなかった。不思議に思って先生の部屋を覗いてみると、先生はベッドの上で死んでいた。
先生になにかあればすぐ外の世界に連絡が行くようになっていたようで、その後すぐ、先生のような僕より大きな人たちがここへやってきた。
彼らは一様に僕を遠巻きにし、手早く先生を運び出し、そそくさと去っていった。
後には、僕だけが残った。
少し、心がすうすうした。
口を開かずに一日いると、口の中がぱさぱさになることを僕は知った。
けれど、僕の毎日は変わらなかった。
ただ、ドームの真ん中に横たわり、大気圏外の敵を探し、落とす。
また見つけては、落とす。
その繰り返し。
やることがあるというのは悪くない、とぼんやりと思った。
それから何回太陽が地平へと後ずさっていっただろうか。
わからない。が、ある日、僕のドームに人がやってきた。
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