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「……ぐうっ! なんだ、いきなり頭が……」
神在島に足を踏み入れた瞬間。
今まで耳にしたこともない特大の耳鳴りに、目眩を起こすほどの頭痛。
そして、何かが纏わり付くような感覚に襲われた俺は、手近な手すりに身を預ける。
「ふぅ……はぁ。 今のは一体……なんだったんだ」
程なくして、身体の違和感は収まった。
が、その直後。
「ちょ、カズくん大丈夫? 船酔いでもした?」
「ああ、大丈夫だ。 なんとも…………ッ!」
音亜が俺の手を握った刹那、妙な記憶が脳裏に浮かんだ。
それはあり得ない記憶だった。
信じかたい、こんな事が起きる筈がない。
だが同時にこうも感じる。
この記憶……音亜が交通事故に巻き込まれて死んだ記憶は、本当にあったのことなのだと。
この島で。
「俺は……ここに来た事が、ある……のか?」
そんな覚えはない。
しかし何故かそう思わずにはいられなかった。
俺は以前この島に来た。
そしてここで俺は音亜を救えず、時姫とかいう時を遡る神が奉られた神社で自害を……。
「……はは、なに言ってんだかな」
「カズくん……?」
音亜に心配されようとも、笑わずにはいられない。
なにしろ俺は今こうして生きているのだ。
死んだなんて荒唐無稽過ぎるってもんだ。
きっと長旅の疲れが出てただけだろう。
そう思う事にして。
「いや、なんでもない。 ただの独り言だよ」
「ほんとに大丈夫なの? 少し休んでから移動しても良いけど……」
「大丈夫だって、ちょっと船酔いしただけだから気にすんなよ。 ほら、アパートの大家さんも待たせてるし、そろそろ行こうぜ」
「う、うん…………?」
俺は音亜と手を繋ぎ、波止場を横切っていく。
ただのデジャブだと自分に言い聞かせながら。
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