滲む涙

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滲む涙

寝過ごした? それしか考えられなかった・・・・・・寝過ごしたのならまだいい、気が付いた駅で降りて折り返しの電車に乗ればいい。 だがもし終点まで行って折り返しの電車が終わっていたら・・・・・・海の乗る電車の終点はさらにここから1時間・・・・ 寂しい山麓の小さな町だ・・・・・・そんなところで下されて帰れなくなっていたらと思うと居てもたってもいられなかった。 駅につくと駅員に確認してみる・・・・・・海の乗る電車が終点に着く時間とその時間から折り返しの電車があるか・・・・・・ 到着15分後に出発する折り返しの最終便があった・・・・・・最悪海が終点まで行ったとしても帰ってこれる。 駅で最終便が到着するのを待った‥‥…到着は00時15分。 長い時間だった・・・・・・何度か電話をしてもやはり出ない。 足が震える・・・・・・余計な事を考えないようにホームから吐き出される人を眺めながら彼らの顔を見ていた。 皆家に帰れば待っている家族がいて暖かな笑顔が待っているのだろう・・・・・・不意に涙が滲んでくる。 海が始めてうちに来た時俺の顔を見てにっこり笑った・・・・・・ 照れたように母親の後ろに隠れながら顔をのぞかせて俺を見る・・・・・・・俺はにらむような顔のまま海に目もくれなかった。 それからずっと海は飽きることなく俺の後を追いかけていた・・・・・・俺は優しい言葉をかけることも笑いかけることもなかったのに・・・・・・ 一度だけ海が小5になったころ、友達を外で待っていると海が俺の横に立った。 「なんでいつも俺の後に着いてくる・・・・・・連れて行かないぞ」 「うん分かってる・・・・・・でも、俺お兄ちゃんの事好きだから・・・・・」 「なんで好きなんだ・・・・・いつも怒ってるだけだろ」 「お兄ちゃん怒ってても意地悪な顔してないから・・・・・・ぶったりはしないでしょ」 「・・・・・・なに言ってんだ・・・・・・子供をぶったりするもんか」 「お兄ちゃんは本当は優しい・・・・・・でしょ」 「違う・・・・・・もう家に入れ」 俺はその時お前こそ優しいじゃなかって心の中で思っていた・・・・・・ おまえは俺を優しいお兄ちゃんだって言った・・・・・・ちっとも優しくなんてしてないのに・・・・・・ また涙が滲んだ・・・・・
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