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そういう訳だと断り席を立つと、アカシアは不貞腐れた様子でシチューをさらい、黙々と食事を続けていた。彼は時にレイフより幼稚であった。
この沈黙に苛立ちながら、わたしはレイフと一緒に片付けを終え、部屋から先祖代々から伝わるというサルマタイ人の剣──柄頭に輪がついた、ローマやヴァイキングのものとも違う無骨な長剣──に油を塗っていた。他方、レイフは隅にあるぼろいソファに腰を掛ける。彼がコメニウスの『目に見える世界図絵』を広げた傍で、アカシアも食器を片付けていた。
「ねえさん。かれははたらきものです。やすみならばきいてもよいとおもいます」
頁を一つめくり、彼は首を上げて言う。その拍子にわたしは手を滑らせ、剣の刃が左掌を掠めた。幸いにも傷は浅く、舐めれば治る程度だった。
「あ、ごめんなさい」
「大丈夫だよ。わたしのうっかりであって君のせいじゃない。それよりなレイフ。お前の肌は赤子のように弱いのだから大事にしないといけないよ」
わたしはソファの下にあった箱から包帯を取り出し、左手に巻きながら窘めた。彼は本を下ろし、まんまるな瞳を向けてきた。
「ゆうがた、ちゃんときこんでからでかけてみましょう」
今度は寝惚ける子ネコのように膝に乗り、優しく頬を抓んできた。ほんのり冷えた肌が心地よい。そんな可愛いことをされたら、こちらの情が煽られてしまうではないか。結局幼気な人肌に負け、わたしは陰った森なら良いかとおとがいを下げることとなった。
かくて後日、我々は日が落ちきらぬ頃に出かける次第となった。わたしは昼過ぎからサンドイッチとショウガ湯を用意し、裏の小道から現れる自由ネコたちの食事も置いていった。この家には昔ネコが住んでいたためか、今も集会の場にされている。
道中の会話は実に他愛なかった。
例えば女性向け雑誌『イングリッシュ・ウーマンズ・ドメスティック・マガジン』に書かれているコルセットの文句。或いはレイフの母から譲られたルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』の感想。
あるいはイーゴリ先生の授業内容に古英語詩の暗誦など、ネコのおもちゃにもなりやしないものばかり。
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