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「悪い、アカシア。わたしも疲れているんだ。少し一人になる」
アカシアは頬をリスみたいにして睨み、布団に潜って転がっていた。
ナジオンは「話は終わったか」と言わんばかりに、ドアノブに飛びつき、扉を開けるなりわたしを外へ導いていく。既に察していたが、向かった先はクリンショーの地下室であった。扉に手をかけ、堂々と開け、ずけずけと下へ降りていく。まるで我が家のように、この自然の香りに満ちた地下階段を一歩一歩降りていく。
光る苔のように仄暗く照らされる四角い扉をノックすると、許しの一言が聞こえた。我ながら雪解けの清水がごとき所作で中に入ると、先日と同様、クリンショーは筵の上で胡座をかいていた。
「唐突な訪問という無礼、ここで詫びさせていただきます」
頭を垂れると、彼はくすりと笑った。
「どうぞ顔を上げてください。あなたの訪問は察しておりましたからね。ささ、お食事もご用意しておりますのでお掛けになってください。アカシアくんの分はナジオンに配達させますのでご安心を」
「ご親切、痛み入ります」
彼はマイズ茶とイノシシのステーキを運んできた。礼を言って受け取り、早速木のナイフで切って口に運ぶ。
未加工の肉は塩を振っただけでも美味しいのかと、舌鼓を打つ。同時にこの贅沢に慣れてはならぬと戒めた。
「お口に合ったようで何よりです。ところで、本題に入らせていただきたいのですがよろしいでしょうか?」
わたしは小さく咳払いしてから顔を上げた。彼はわたしの視線を受け止めると、黒い唇がぬらりと動く。
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