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来春
ラウンジに行くと空也がコーヒーを飲んでいたが、1人じゃなかった。空也の座っているテーブルの側には女の子が立っていて話しかけている
ファンかな?
空也は愛想はよくないものの相手をしていた。
割って入るのも気が引けて、携帯で『車に行っています』とメールを送って駐車場に向かった。
鍵を持っていないので、車の横の歩道で空也が来るのを待つ。
飛び立っていく飛行機を見上げた。
淳が行ってしまった。
なんだか寂しい。
いつも側にいて、兄弟のように育って仕事も一緒で住むところも近くて……なんだか心に穴が開いたみたいだ。
ため息をつく。
「初音」
不意に頭の上から声がして顔を上げる。
「空也」
空也が手を引いて歩き出す。車までは数歩だ。
その背中を見つめる。
『旅行に行こう』
淳がパリに行くと告げた日。空也が突然言った。落ち込むって……見越しての事だったのかな。
優しいね……。
寂しさを紛らわしてくれるって事だったのかな。
「空也……」
「何だ?」
振り返りもせずに応える。
「……ありがとう」
「ああ」
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