偶然

2/5

227人が本棚に入れています
本棚に追加
/131ページ
 リビングの電気は消えていて、静かに着替えて寝室のドアを開ける。ベッドサイドのライトが付けっぱなしになったまま、空也は熟睡していた。  そっと起こさないように横に入り込む。  眼鏡を外す。  間近で見る寝顔。  ドキドキする。  無精髭が伸びている。  男らしい顔。  その頬に手を伸ばして、そっと……触れるだけのキス。 「……初音?」 「ごめんなさい。起こしましたか?」 「ああ。……お帰り」  腕の中に抱き込まれる。 「……ただいま」  額にキス。  鼻……頬……唇。 「……んっ……」  口づけに応える。 「明日は早いのか?」  唇が離れる。 「ええ。また早朝からの撮影があるので、6時前には……」 「そうか」  ギュッと抱きしめられる。  少し上がったお互いの体温。  お互いが分かっていること。  忙しくてもう1カ月近く抱き合っていない。夕食も一緒に食べることもできない。 「明日は淳の送別会があるので、遅くなります」 「分かった」  空也が目を閉じた。 「……空也……」 「何だ?」
/131ページ

最初のコメントを投稿しよう!

227人が本棚に入れています
本棚に追加