不幸解禁

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____「人って愚かだね」  大きなスクリーンを見つめ、拓也がため息をついた。  しんみりしちゃって、自分だって面白がってるくせに。 「人が愚かなわけじゃなくて、愚かな人がいるってだけだよ。だって、私達はこんなことしない」  拓也はクスッと笑った。 「そうだね。僕らは人の不幸を願うほど、不幸になったことがない」  政府関係者である私達は、所得制限の為、幸福保護権がない。  人を不幸にできる権利もないし、不幸にあう義務も免除されている。  そしてもう一つ、当事者にしか知らされていない別の権利が与えられていた。 『東大のやつ、だれでもいいから就活失敗してくれ』 『私を振った元カレ、一生振られ続けろ』 「ホントバカだよね」 「バカっていうか、……可哀想?」  私達は、人の不幸を願った国民達の様子をモニタリングすることが許されている。  これがまた、下手なドラマよりもよっぽど面白い。  愛する拓也と共に人の不幸を楽しく嘲笑いながら、時には同情しながら、ゆっくりお酒を飲むことが最高の贅沢だ。  スクリーンの中の登場人物達は、今日もくだらない不幸を願い、くだらない不幸にあって絶望する。  私達高所得者らの幸せをより味わい深いものにする為に。 「今日も憎み憎まれ、一生懸命世の中を回してね。私達の幸福の為に」  私達は微笑み合ってグラスを重ねた。  この国は、不幸を解禁する。
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