第一話「雷雨と歓待」

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 大学生活は特筆することがないほどに順風満帆。適度に出席して適度にサボればそれでいい。 「寝てたわーノート貸して!」 「次の授業ダルいし抜けてカラオケいこーぜ!」 「金がないんなら、あいつからたかればいーじゃん」  悪友達と遊ぶ日々。それは、別に苦でもなんでもない。むしろ、こんな日常を望んでいた。大学生活が終わればどうせ社会の歯車。享楽に更けていられる間は、好き勝手したいもの。だからこそ、好きに生きていた。  それは日常生活に留まらず、ゲームにおいてもそうで。シナリオとして用意された道を辿るのがつまらなくなり、裏技とバグ技に手を付け、いつの間にかチートツールに手を出して。レベルと所持金は最初から上限、序盤から最強の装備、それだけではつまらないから、と序盤のフィールドに終盤のモンスターやラスボスを出したり、地形やキャラクターのグラフィックをおかしくしたり。意図的にバグコマンドを打ち、フリーズしようともやめられなかった。  オンラインゲームでもチートに手を出してアカウントを停止されたが、ネット環境が絡まないゲームならば誰一人として止める者はいない。 「うわ、もう何言ってんかわかんねぇ……まーいっか」  攻略手順が頭に入っているほどに遊びつくしたゲームは、全てが狂わされているものの輝きを失わない。チートで何もかもをおかしくすれば追加で何周したって飽きが来ることはない。崩壊した土地よりも凄惨な姿をしたゲームの世界を慣れた手つきでセーブして、いつも通りの日常を終える。そんな日々が続くものだと思っていた。
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