「誰か好きって言ってよ!」って言いながら、幼なじみがオレを追いかけてくる。

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「も~! 誰か好きって言ってよーっ!」 「知らねえよ!」    学校の帰り道、橋を駆け抜け、ランがオレを追いかけ回す。  察しはついてる。  どうせまた、友だちのひとりに恋人ができたのだろう。 「なんで!? なんでみんな恋するの!? なんでみんなあたしを置いてっちゃうの!?」 「だから知らないって!」  オレは歩道の木に登ってやりすごそうとした。 「逃げんなカケル!」  しかし、ランもよじ登ってくる。  枝を鉄棒代わりにして、オレは公園の広場まで逃げた。  まだランが追いかけてくる。    「だってみんなさ、非モテ同盟組んでさ、老人ホームで女同士一緒に住もうね、って言ってくれたよ! その矢先にこれ! 裏切りじゃない?」 「もう秋なんだから、恋の一つくらいするだろ! 人恋しいんだよ!」  「じゃあ、あんたもしてるわけ!?」 「してるかもな!」 「やだもー! 誰が好きか言いなさいよっ!」 「それこそヤだよ!」 「聞き出すまで、ずっと追いかけるから!」  冗談ではない。  家の近くにある駅の方まで、オレは逃げた。  電気自転車レンタルと、銀行の間を抜ける。 「待て逃げんな!」  逃げるっての!  バス停を通り過ぎ、公民館の方まで向かう。  オバサン連中が道を塞いでいる。着付け教室の生徒か。 「ごめんなさいっ」  オレは体操選手のように横向きで回転して、オバサンたちの上を跳んだ。    階段を駆け抜けて、振り返る。  どうにか、まいたようだ。  だが、ランがエレベーターからやってきた。   「ズルい!」 「何も話さないアンタが悪い!」  オレは、手すりを滑って急降下する。  これは、ショッピングモールまで逃げてやり過ごすか。 「くっそ! 工事中!」  そうだ。モールまでの道は、万博まで改装中だったんだっけ。  バス停をひたすら走る。 「待て待て!」  あんにゃろ、電気自転車借りてやがる! 「ここ、走っちゃダメなエリアだろ」って言いたかったが、ちゃんと車道を渡っている。  そういうところは、ちゃっかりしてるんだよな。  しかし、オレはモールへと逃げる。  電気自転車を駐めるところがなくて、ランがもたついている。    その間に、モール内部へ。  見本のソファに腰掛けて、一休み。  まったく、しぶといやつだ。 「見つけたよ!」 「わっ! いつの間に!?」  立ち上がろうとしたが、ランがオレにのしかかって来た。 「ねえ、誰が好きなの?」  オレは、手首を引っ張ってランに顔を近づける。   「……今、オレに乗っかってるやつ」  ランが顔を離し、「バカ!」とオレを罵った。 「そういうのは、もっとムードのあるところで言ってよ!」  言えって言ったの、お前だろうが!
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