愛さなくてごめんなさい

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 パンッ──と乾いた音が鳴って。  その日、自分でも何か起きたのかわからない。気づいたら床に転がっていて、頬が酷く熱かった。  それで多分──目が覚めてしまった。まるで夢の中から出てきたような、不思議で、でもしっかりと現実味があって。  夫の怒声は耳に入らない。だってずっと前から片耳が聞こえないから。もう片耳も、聞こえにくい。  側にいた息子は意に介さずスマホをいじっている。  自室に向かう夫の背中を見つめて私は、ああもうだめだ。と、静かに悟った。  
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