愛さなくてごめんなさい

6/10

5人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ
 雑に応急処置をした傷が開いたのか、ボタボタと血が滴った。一滴と出ない涙の代わりなのかもしれないと思うと、止血する気にはならなかった。  その日衝動的に、旅行バッグに私物をありったけ詰めた。通帳判子カード……金銭面は特に。喪服に滴る血も気にせず、全て詰めた。  旅行バッグひとつに収まってしまうくらいしか私物はなかったことに、きっと誰よりもやらせなかった。  鞄を持ってふらふらと駅へ向かう。実家まで30分。大丈夫。けれどそう思ってるのは自分だけだった。 「これ、使ってください」 「部活で使った余りなんでよかったら!」 「救急車呼んだ方がいいんじゃない……?」  スーツの女性に、運動部らしき男子高校生。車椅子のお婆さん。……みんな心配して声をかけてくれて、助けようとしてくれる。  号泣する私に、周囲の人々は温かく接してくれた。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加