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私は鞄からスマホを取り出した。あの日頭を打つけた時に少し画面が割れてしまったけど、問題なく動く。
“妹”へコールすると、タイミングよく本人が駆け込んできた。
「ナイスタイミング」
「え?」
妹は私の顔を怪訝そうに覗き込んでから、何かを察したようにため息をついた。
「わかった」
この妹は昔から察しがいい。だからこそ全分の信頼を置いているのだ。
そこからの妹の行動は早かった。あっという間に興信所を使って証拠を集めて、弁護士を見つけてきて、退院する頃には裁判の準備が整っていた。
なぜ裁判なのかというと、夫が離婚をごねたからだ。
「なぜ離婚するんだ」「今まで上手くやっていたじゃないか」「俺は何も悪くない」「ちょっと叩いただけで大袈裟」「勝手に怪我したくせにこれ見よがしに大袈裟に」「俺の方が恥をかいた。慰謝料をよこせ。ふんだくってやる」等々──。
LINEにも散々送られてきていた内容だった。
よくもまあ、ここまで自分を正当化しようとできる。
まあ、それもそうか。と、過去を振り返ってみる。
息子享年18歳。どっちみち20歳になったら離婚しようとは産んだ時から思っていた。
だって息子は、夫の避妊拒否で産まれた子だったから。
それでも私なりに精一杯愛情を注いだつもりだった。でもだめだった。察していたのか、夫からの自己防衛だったのか、長い反抗期だったのか──今となってはわからない。でも冷たいようだが、どうでもいいか。で、収束してしまった。
息子にとって私はいない存在だったのだから。
だからお母さんは、お母さんをやめます。
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