第1話、友だちが出来ないと思ったらバツ

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第1話、友だちが出来ないと思ったらバツ

新緑の山が爽やかに色づく頃のことだった。男子が一人、並木道を登校していた。 名前は(ばん)勇斗(ゆうと)で、今年の春、良瀬明(らせあ)中等部(ちゅうとうぶ)に入学したばかりだ。 中等部の玄関で勇斗が普段靴から上履きに履き替えたとき、彼のクラスメート2人がやってきた。 「よぉ、バツ」 「今日の授業、ずっと小テストだよな、バツ」 クラスメート2人は、勇斗のことを「バツ」と呼んでいた。勇斗の名字の「伴」を「バツ」に言い換えたからという理由もあるが、いつもテストがある度に0点のことが多いため、そう呼ばれていた。 「あのさ、バツって呼ぶのやめてよ」 と、勇斗が言うが、クラスメート2人は笑うだけだった。勇斗が困っていると、 「お前たち、だっせーな。クラスメートの名字もまともに言えないのかよ。こいつの名字は、バツじゃなくて、(バン)だろ、バ・ン」 背の高い男子が助けに来てくれた。名前は平本(ひらもと)颯吾(そうご)で、勇斗と同じクラスメートだ。 「何だよ、平本、うるせえな」 「二重丸な奴はあっち行けよ」 二重丸と彼が言っているわけは、颯吾はテストでいつも満点を取っているからだった。 「あっち行くのはお前らだろ。クラスメートの名字を間違って言ってバーツ!」 颯吾が両手でバツを作ると、相手にしていられないと、クラスメート2人は退散して行った。
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