呼び出し

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呼び出し

「わるいな、わざわざ呼び出して。」 「ううん、いいよ。  っていうか、この中庭なら、いつものことじゃん。」  地元の公民館の中庭で、三咲は笑った。  この公民館には図書室が併設されていて、よく二人で宿題をしに来ては、中庭で日向ぼっこの休憩をしていた。 「相談したいことって、なに?」 「うん、実は……」  僕は先日告白されたこと、幼なじみがいるとわかった途端に去られたことを話した。 「こういうことってさ、たぶん今後、三咲にも起こりうると思うんだ。  だから、二人の関係ってなんなのか、はっきりさせておきたいと思って。  僕たちって、仲良しなだけ?  それとも、意外と恋人になる可能性あり?」  三咲は目を見開いて僕を見ていたが、急に顔を赤くして正面に背けた。 「かっ、考えたこともない、なー。」 「だろ? だから、僕も困ってさ。」 「た、保はどう思うの?」 「だから、それがよくわかんなくて。」  すると三咲は黙り込んだ。  視線を芝生に落として、だんだん真剣な顔になっていった。  そして、ぱっと僕をふり向いて、自分の唇を指差した。 「この口紅、どう思う?」 「え、口紅? してたの?」 「…………うん。してた。今日初めてだけど。」 「三咲はもともと血色がいいからなあー。  小学校の頃も、健康優良児童として賞状もらったり、市民新聞に載ったりしてたじゃん。」 「うんうん、今はそれらは横に置いておこうよ。  とにかく口紅だってカムアウトしたんだから、感想聞かせてよ。」 「感想ー?」  僕はあらためて三咲の唇を見た。  それから半月後、初夏の木漏れ日の下で、僕らははじめてのキスをした。  そしてその結果。  僕が化学物質アレルギーであることが判明した。
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