幼馴染なんかじゃ

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 引っ越しの日はあっという間に訪れた。  業者を頼む余裕はなく、軽トラックを所持している友人がいて手伝ってもらえることになった。  友人は長谷川と言って、柚子と修平の高校時代の友人だ。 「よう、お前ら別れたんか?」  長谷川が茶化してくる。 「付き合ってませんー!」柚子が口を尖らせる。  長谷川に手伝って貰いながら柚子と修平はどんどん荷台に荷物を積んでいく。いよいよ出発だ。先に修平の部屋へ荷物を運ぶ段取りになっていた。 「柚子、これからは作業場でな」  そう言って修平が背を向ける。  大丈夫。  私たちは幼馴染。  これからだってそう演じていけばいい。  それなのに。  柚子の瞳からはボロボロと涙がこぼれていた。  玄関に向かう修平の腕を咄嗟に掴んでいた。 「修平っ」 「柚子…?」  修平が涙をこぼす柚子を不思議そうに見つめていた。  柚子の瞳から涙が止まらない。 「修平…私も修平のことが好き…離れたくない…」 「でも柚子…」  わかってる。わかってるんだ。  こんな今更気持ちを告げても修平を困らせるだけだって。  わかってるけど、でも、離れたくない。 「今更こんなこと言ってごめん。でも気づいたの…修平のことが好きだったけど、ずっと一緒だったから…気づけなかった。高山さんを拒んだのも、きっと修平じゃなきゃ嫌だったから…」 「柚子…」  修平がぎゅっと柚子を抱きしめる。  そこで外で作業していた長谷川が玄関の扉を開けた。 「おいおい、引っ越しはなし?」  二人の熱い抱擁を見て長谷川が呆れていた。 「うわー!」と言って柚子が修平を押しのけた。 「悪い、長谷川」 「ごめん、長谷川くん」  二人で長谷川に詫びる。  折角引っ越しを手伝いにきてくれたのに申し訳ない気持ちでいっぱいだった。 「やーっと結ばれたか。何年かかってるんだよお前ら」  長谷川がワハハハと笑った。  柚子と修平も顔を見合わせて笑った。
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