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ドロテの訪問
夜会から一週間後のこと。
セルジュが仕事でいない午後に突然、ドロテが屋敷を訪れた。
「驚きましたわ、ドロテ様。今日はいったいどんなご用件でしょうか」
学生時代から一度もお互いの家を行き来したことのないドロテが、急に私を訪ねてきたことに私は驚きを隠せなかった。
セルジュのこともあって、私は彼女から完全に嫌われていたのだ。
「お構いなく。近くまで来たから寄ったまでです」
そう言って澄ました顔でお茶を飲むドロテ。いったい何をしに来たのだろうか。
「あらいけない」
急にドロテの手が傾いて、彼女のドレスの上にティーカップの紅茶が降りかかった。
「あっ! 大丈夫ですか? ドロテ様、火傷なさってませんか?」
「ええ、大丈夫よ。でもこれでは帰れないわね。ちょっと着替えさせてもらってもよろしいかしら」
後ろに控えていた彼女の侍女が、鞄からサッと着替えを取り出した。あまりの準備の良さに何か嫌な予感がしたが、だからと言って着替えさせないわけにもいかない。そのため、いつも私が使っている支度部屋へとドロテを案内した。
しばらくして支度部屋から出てきたドロテはすぐに暇を告げた。
「えっ、もうお帰りになるのですか?」
正直言って、まだ何も話していない。来て早々にお茶をこぼして、今まで着替えていたのだから。
「ええ。次の予定がありますので失礼いたしますわ」
そう言って私の顔を見たドロテは、急に近寄ってきて私の肩を触った。
「あら、埃がついていましてよ」
そしてなぜかドロテはアップにした私の後れ毛を思い切り引っ張った。
「痛っ……!」
プチっと嫌な音がして、髪が何本か抜けてしまった。うなじにヒリヒリと痛みが走る。
「あらごめんなさい。埃かと思ったら髪の毛だったわ。茶色い髪だからゴミに見えたのね」
ホホホ、と笑いながらドロテは帰っていった。
(いったい、何しに来たのかしら……ろくに話もせずに、ホントに嫌な人。もう次に訪ねて来られてもお断りしよう)
とは言え、ただそれだけのことだったのでセルジュには何も言わずにいようと決めた。
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